私のAI作品、守るには?

AIツールを使った共同制作の著作権:権利関係を明確にするための注意点

Tags: AI, 著作権, 共同制作, 契約, 権利保護

はじめに:AIツール活用が広げる共同制作の可能性と課題

近年、画像、文章、音楽、動画など、様々なAI生成ツールが登場し、コンテンツ制作の現場に変化をもたらしています。これらのツールは、単一のクリエイターによる利用に留まらず、複数の人間が協力して一つのコンテンツを作り上げる「共同制作」のプロセスにも積極的に組み込まれるようになっています。

人間同士の共同制作においても、著作権の取り扱いは複雑な問題となり得ますが、AIツールが制作プロセスに介在することで、権利の帰属や利用に関する課題はさらに多様化しています。特に、小規模なコンテンツ制作会社にとって、クライアントワークや社内プロジェクトでAIツールを用いた共同制作を行う際に、著作権上のリスクを適切に管理し、関係者間のトラブルを防ぐことは喫緊の課題です。

本記事では、AIツールを使った共同制作における著作権の基本的な考え方から、想定される権利関係のパターン、そしてトラブルを回避するための実践的な注意点、特に契約において明確にすべき事項について解説します。

AI生成コンテンツと「共同著作物」の考え方

日本の著作権法における「共同著作物」とは、「二人以上の者が共同して創作した著作物であって、各人の寄与を分離して利用することができないもの」を指します(著作権法第2条第1項第12号)。共同著作物の著作権は、共同著作者全員で共有することになります。

AIツールが介在する共同制作において、この「共同著作物」の概念をどのように適用できるかが問題となります。現在の日本の著作権法解釈では、AI自体は「創作的寄与」を行う主体とはみなされず、著作権の帰属主体は原則として「人間」であると考えられています。

したがって、AIツールを使って複数の人間が共同で一つのコンテンツを作り上げた場合、そのコンテンツが著作物と認められるためには、関与した人間のいずれか、あるいは複数の人間の創作的な寄与が必要となります。そして、その創作的寄与が共同で行われ、それぞれの寄与が分離できない場合に、共同著作物として認められる可能性があります。

重要なのは、AIツールが行った作業そのものは、著作権法上の創作的寄与とはみなされない点です。著作権が発生するのは、人間がプロンプトを工夫したり、生成された素材を選択・加工・組み合わせたり、全体の構成を決定したりといった、創造的な判断や表現行為を行った部分に対してです。

AIが介在する共同制作における権利帰属の複雑性

AIツールを使った共同制作では、関与する人間とAIツールの役割分担によって、権利帰属のパターンや複雑さが異なります。

想定されるパターンと注意点

  1. 複数の人間がAIツールを共同利用してコンテンツを制作

    • 例:ディレクターが全体の構成を指示し、ライターがAIで文章を生成・編集、デザイナーがAIで画像を生成・加工し、それらを組み合わせて一つのコンテンツを作成。
    • 注意点:コンテンツ全体として人間の共同による創作性が認められれば、共同著作物となる可能性があります。誰がどの部分にどのように創作的に寄与したか、その寄与は分離可能か不可分かによって権利関係が変わります。各人の貢献度や役割を明確にしておくことが重要です。
  2. 一人の人間がAIツールで生成した素材を、別の人間が加工・編集してコンテンツを制作

    • 例:ライターAがAIでラフな文章を生成し、ライターBがそれを全面的に修正・加筆して完成させる。あるいは、デザイナーAがAIで複数の画像案を生成し、デザイナーBがそれを選定・調整・統合して最終画像を制作する。
    • 注意点:後の加工・編集を行った人間の創作的寄与の程度によって、新たな独立した著作物となるか、元の素材の二次的著作物となるか、あるいは共同著作物となるかが変わり得ます。加工・編集者の創作性が非常に高ければ、その者が単独で著作者とみなされる可能性もあります。
  3. 複数のAIツールを連携させてコンテンツを制作し、人間が最終調整

    • 例:文章生成AIでプロットを作成し、画像生成AIでキャラクターデザインを生成し、音楽生成AIでBGMを作成し、動画編集ソフトで人間がこれらを組み合わせて映像作品にする。
    • 注意点:各AIツールが生成した個別の素材自体にどこまで著作物性が認められるか、そしてそれらを組み合わせた最終成果物に人間の創作性がどれだけ含まれるかが論点です。各素材の権利関係が異なる可能性もあり、複雑になり得ます。

これらのパターンに共通する難しさは、AIツールが生成した部分と人間の創作的寄与の部分を明確に区別し、それぞれの権利の帰属を判断することです。

トラブルを防ぐための実践策:共同制作契約の重要性

AIツールを使った共同制作における著作権トラブルを回避するための最も重要な実践策は、制作を開始する前に、関与する全ての人間(共同制作者、クライアント、外注先など)との間で、権利に関する事項を明確に合意し、可能であれば契約書や覚書として書面に残すことです。

特に以下の点について、詳細な取り決めを行うことが推奨されます。

  1. 著作権の帰属主体と持分

    • 最終的なコンテンツの著作権を誰が保有するのか、あるいは共同制作者間で共有するのかを明確にします。
    • 共有する場合、それぞれの持分(割合)を定めておくと、後の権利行使や収益分配の際の基準となります。持分を定めない場合は均等と推定されますが、明確に合意しておく方が安全です。
    • 補足: AIツール利用規約で、生成物の著作権がツール提供者に帰属する、あるいは特定の条件で使用が制限される場合もあります。これらの利用規約も事前に確認し、共同制作するコンテンツ全体の権利関係に影響がないか検討が必要です。
  2. 著作権の利用許諾範囲

    • 完成したコンテンツを、共同制作者がそれぞれどのように利用できるのか(例:ポートフォリオへの掲載、自身のウェブサイトでの公開、別のプロジェクトでの再利用など)を具体的に定めます。
    • クライアントワークの場合、クライアントへの権利譲渡や許諾の範囲(独占的か非独占的か、地域、期間、利用目的、二次利用の可否など)を明確にします。
  3. 著作者人格権の扱い

    • 共同著作物の場合、著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権など)は全員の合意がなければ行使できません。実務上の便宜のため、人格権を行使する代表者を定めるか、あるいは一定の範囲で特定の者(例:ディレクターや代表者)が単独で行使できる旨を定めることも検討できます。ただし、人格権は譲渡できない権利である点に留意が必要です。
  4. 制作費用と収益の分配

    • 制作にかかった費用(AIツール利用料、素材購入費など)の負担方法や、完成したコンテンツから生じる収益(販売益、ライセンス料など)の分配方法を定めます。これは直接著作権ではありませんが、権利の利用と密接に関わるため、合わせて取り決めるのが一般的です。
  5. 権利侵害が発生した場合の対応

    • 万が一、第三者による著作権侵害が発生した場合、誰がどのように対応するか(警告、訴訟など)を定めます。権利を共有している場合は、原則として全員で対応することになりますが、代表者を定めるなど、対応方法を事前に協議しておくことが望ましいです。
  6. 契約期間と解除条件

    • 共同制作の期間や、契約が解除される条件(例:プロジェクトの中止、共同制作者の離脱など)を定めます。解除後の権利の扱いについても明確にしておきます。

実務上のステップと注意点

まとめ:明確な合意と契約で、AI共同制作のリスクを管理する

AIツールを用いた共同制作は、制作の効率化や表現の多様化といったメリットをもたらしますが、著作権に関しては人間の共同制作以上に複雑な論点を含みます。AIが関与する場合の著作物性の判断や、人間のどの部分に創作性が認められるかなど、法的な解釈がまだ確立されていない部分もあります。

このような状況下で、トラブルを未然に防ぎ、関係者全員が安心して制作に取り組むためには、曖昧さを排し、プロジェクト開始前に著作権の帰属、利用範囲、著作者人格権の扱いなどを明確に合意し、契約書として具体的に定めることが不可欠です。

本記事で解説した注意点を参考に、自社やクライアントの権利を適切に保護し、AIツールを活用した共同制作を成功に導いてください。法的な判断に迷う場合は、著作権に関する専門知識を持つ弁護士などの専門家に相談することも検討してください。