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AI生成コンテンツの著作権侵害:差止請求・損害賠償を検討する際の法的視点と実務上のステップ

Tags: 著作権侵害, AI生成コンテンツ, 差止請求, 損害賠償, 法的対応, 実務

はじめに

AIツールを活用してコンテンツを制作することは、多くのビジネスにおいて一般的になりつつあります。しかし、自社が制作したAI生成コンテンツの著作権が侵害されてしまった場合、どのように対応すればよいのでしょうか。著作権侵害への対応策としては、警告による任意での解決を目指すほか、法的な措置として「差止請求」や「損害賠償請求」を検討することがあります。

これらの請求は、侵害行為を止めさせたり、被った損害を回復したりするための重要な手段です。ただし、請求を行うには法的な要件を満たす必要があり、またAI生成コンテンツ特有の難しさも伴います。

本記事では、AI生成コンテンツの著作権侵害が発生した場合に、差止請求と損害賠償請求を検討する際の法的な考え方と、実務上で踏むべき具体的なステップについて解説します。

著作権侵害に対する法的措置の基本

著作権が侵害された場合、著作権者は、著作権法に基づき、侵害行為を行う者に対して様々な法的措置をとることができます。主なものとして、以下の2つが挙げられます。

これらの請求は、侵害行為の事実と、侵害行為が自社の著作権を侵害していることを立証する必要があり、最終的には訴訟を通じて裁判所の判断を仰ぐことになります。

差止請求について

差止請求は、現在行われている侵害行為を直ちにやめさせ、また将来行われる可能性のある侵害行為を予防するために行われます。例えば、無断でウェブサイトに掲載された自社のAI生成画像を削除させたり、無断複製されたコンテンツの配布を停止させたりする場合に用いられます。

差止請求の要件

差止請求が認められるためには、主に以下の要件を満たす必要があります。

  1. 現に行われている侵害行為または将来行われるおそれのある侵害行為があること: 実際に侵害行為が行われているか、または具体的な状況から見て将来侵害行為が行われる可能性が高いと判断される必要があります。
  2. 請求者が侵害されている著作権の権利者であること: 差止請求を行う者が、侵害されている著作権を正当に有している必要があります。

実務上の考慮事項

差止請求は迅速な対応が求められることが多く、裁判所に「仮処分」という手続きを申し立てることもあります。仮処分が認められれば、判決を待たずに暫定的に侵害行為を停止させることができます。

ただし、差止請求を行うには、侵害の事実と自社の権利を明確に示す証拠が必要です。また、仮処分では、相手方に与える可能性のある損害を担保するために、保証金を供託(法務局等に預けること)する必要がある場合があります。

損害賠償請求について

損害賠償請求は、著作権侵害によって被った損害を金銭的に填補することを求める請求です。例えば、侵害行為によって得られるはずだった利益が得られなかった場合や、コンテンツの信用が毀損された場合などに検討されます。

損害賠償請求の要件

損害賠償請求が認められるためには、民法上の不法行為の要件を満たす必要があります。著作権侵害の場合は、主に以下の要件となります。

  1. 侵害行為の存在: 著作権を侵害する行為があったこと。
  2. 請求者が侵害されている著作権の権利者であること: 差止請求と同様、正当な権利者であること。
  3. 侵害者に故意または過失があること: 侵害者が、自分の行為が著作権侵害であることを知っていた(故意)か、あるいは注意すれば知ることができたのに知らなかった(過失)こと。ただし、著作権侵害の場合は過失が推定されることが一般的です(民法第709条の2)。
  4. 損害の発生: 侵害行為によって請求者に損害が発生したこと。
  5. 侵害行為と損害の間の因果関係: 侵害行為がなければその損害は発生しなかったという関係があること。

損害額の算定

損害賠償請求において最も実務上難しい点の1つが、損害額の算定です。著作権法では、著作権侵害による損害額の算定について、権利者の立証負担を軽減するための特則が定められています(著作権法第114条)。

これらの特則は強力ですが、実際の損害額が特則によって算定された額を超える場合は、その超過分について別途立証する必要があります。

AI生成コンテンツ特有の論点

AI生成コンテンツの場合、これらの請求を検討する際に特有の難しさや論点が生じる可能性があります。

著作物性の判断の不確実性

差止請求や損害賠償請求の前提として、侵害されたとされるコンテンツがそもそも著作権法上の「著作物」に該当するかという判断が不可欠です。AI生成コンテンツの場合、「人間の創作的寄与」の程度が不明確であることから、著作物性の判断に不確実性が伴うことがあります。もしコンテンツが著作物と認められない場合、著作権侵害は成立せず、これらの請求も認められません。

請求を行う側は、自社のAI生成コンテンツに「人間の創作的寄与」があることを具体的に立証する必要があります。例えば、プロンプトの作り込み、生成後の加筆・修正、試行錯誤のプロセスなどを記録しておくことが重要になります。

損害額算定の難しさ

AI生成コンテンツは、大量かつ迅速に生成できる場合があります。この特性は、例えば侵害者がそのコンテンツを大量に利用した場合に、著作権法第114条第1項の「侵害者が得た利益」や第2項の「権利者の逸失利益」の算定を複雑にする可能性があります。また、コンテンツの種類(画像、テキスト、音楽など)によっても、市場価値や損害の算定方法が異なります。ライセンス料相当額を算定するにしても、AI生成コンテンツのライセンス市場はまだ確立途上であり、適切な料率の算定が難しい場合も考えられます。

請求を検討する際の実務上のステップ

AI生成コンテンツの著作権侵害に対する差止請求や損害賠償請求を検討する場合、以下のステップで進めることが一般的です。

  1. 侵害事実の確認と証拠収集:
    • 侵害行為が行われている媒体(ウェブサイト、SNS、物理的な媒体など)を特定し、証拠(スクリーンショット、印刷物、URLなど)を収集します。日付や時間がわかるように記録します。
    • 侵害されたとされるコンテンツが、自社のAI生成コンテンツであること、そしてそれに「人間の創作的寄与」があることを示す証拠(プロンプト、修正履歴、制作フロー、生成記録など)を整理します。
    • 損害が発生している場合は、その内容(例えば、自社コンテンツの販売機会の損失、信用低下など)を具体的に示す証拠を収集します。
  2. 自社の権利確認: 侵害されたコンテンツの著作権が、自社に正当に帰属していることを再確認します。特に、職務著作や外部委託の場合は、契約内容に基づいて権利の帰属を確認します。共同制作の場合は、関係者間の権利関係も明確にしておく必要があります。
  3. 専門家への相談: 著作権法、特にAIと著作権に関する法解釈は専門性が高いため、著作権問題に詳しい弁護士や弁理士に速やかに相談することが強く推奨されます。証拠の有効性や請求の可能性、取るべき最適な対応策について専門的なアドバイスを受けることが重要です。
  4. 相手方の特定と警告: 侵害行為を行っている相手方を特定します。特定が難しい場合もありますが、専門家と協力して調査を進めることも可能です。相手方が特定できたら、通常は内容証明郵便など、証拠が残る形で侵害行為の停止や損害賠償を求める警告書を送付します。
  5. 裁判外での交渉: 警告書に対する相手方からの応答に基づき、裁判外での和解交渉を行います。ここで解決に至れば、訴訟にかかる時間やコストを削減できます。
  6. 訴訟提起: 交渉によって解決できない場合、裁判所に差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟を提起します。訴訟では、当事者がそれぞれ証拠を提出し、主張を行い、裁判所が最終的な判断を下します。

まとめ

AI生成コンテンツの著作権が侵害された場合、差止請求や損害賠償請求は、権利を守るための強力な手段となり得ます。しかし、これらの請求を行うには、侵害事実、自社の権利、損害の発生などを法的に有効な形で立証する必要があり、特にAI生成コンテンツの場合は、著作物性の判断や損害額の算定など、いくつかの特有の論点を考慮する必要があります。

権利侵害に適切に対応し、自社やクライアントの権利を保護するためには、侵害が疑われる時点から速やかに証拠を収集・保全し、著作権法に詳しい弁護士等の専門家に相談することが不可欠です。日頃からAI生成プロセスの記録を残しておくなど、万が一の事態に備えた準備をしておくことも、侵害発生時の対応を円滑に進める上で役立ちます。

※本記事は2024年〇月〇日現在の一般的な法解釈や情報に基づいて執筆されています。個別の事案については、必ず専門家にご相談ください。