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AI生成コンテンツの著作権は誰のもの?職務著作の要件と実務

Tags: AI著作権, 職務著作, 企業法務, 著作権法, AI生成コンテンツ

はじめに:AI活用と著作権帰属の問題

近年、企業におけるAIツールの導入が急速に進んでいます。画像、文章、音楽、動画など、様々なコンテンツ制作の現場でAIが活用されており、生産性の向上や新たな表現手法の開拓に貢献しています。しかし、その一方で、AIが生成したコンテンツの著作権が誰に帰属するのか、という法的な課題が浮上しています。

特に、会社の業務として従業員や委託先がAIを利用してコンテンツを制作した場合、その著作権は会社のものとなるのでしょうか。この問題は、日本の著作権法における「職務著作」の考え方と密接に関わってきます。企業の法務リスク管理や権利保護の観点から、職務著作の要件とAI生成コンテンツへの適用について正確に理解しておくことが重要です。

職務著作とは何か:著作権法第15条の解説

職務著作とは、法人その他の使用者が、その発意に基づき従業員等に作成させた著作物の著作権が、原則としてその使用者(法人等)に帰属するという著作権法の規定です(著作権法第15条)。これは、企業活動の中で創作される著作物について、個々の従業員ではなく組織全体に権利を帰属させることで、円滑な権利処理を目的とした特例規定です。

職務著作が成立するためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. 法人等の発意に基づき作成されたこと: 著作物の企画や制作が、法人等の業務として指示された、あるいは法人の意図に基づいて行われたものであること。
  2. 法人等の業務に従事する者が作成したこと: 正社員、契約社員、嘱託社員など、法人等の指揮監督下で業務を行う者が作成したものであること。単なる個人的な趣味や職務外の活動として作成されたものは該当しません。
  3. その法人等の職務上作成されたこと: 著作物が、従業員等の具体的な職務内容や担当業務の範囲内で作成されたものであること。
  4. 契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと: 会社と従業員との間の契約や就業規則などに、著作権の帰属について職務著作の原則とは異なる特別な定めがないこと。特別な定めがある場合は、そちらが優先されます。

これらの要件を満たす場合、著作者は法人等とみなされ、著作者人格権および著作権は原則として法人等に原始的に帰属します。

AI生成コンテンツと職務著作の論点

AIがコンテンツ制作に関与する場合、上記の職務著作の要件はどのように適用されるのでしょうか。現状の法解釈や一般的な考え方に基づき、主な論点を以下に整理します。

「法人等の発意」とAI利用の指示

AI生成コンテンツの場合でも、その制作が法人等の業務の一環として企画され、AIツールの利用も含めて指示されたものであれば、「法人等の発意に基づき作成された」という要件を満たすと考えられます。重要なのは、AIを利用してコンテンツを制作するというプロセス自体が、会社の業務遂行のために行われたという事実です。

「業務に従事する者が作成」とAIツールの関与

この要件は、著作物を「作成した者」が法人等の業務に従事しているか、を問題とします。AIツール自体は「業務に従事する者」ではありません。したがって、従業員等が自らの業務としてAIツールを操作し、生成されたコンテンツに対して人間の側で何らかの創作的な関与(プロンプトの設計、生成結果の選定、編集、加筆・修正など)を行っている場合、そのコンテンツは「業務に従事する者」によって作成されたと評価されうると考えられます。

もし、人間の関与が極めて少なく、AIが自律的に生成したと評価されるコンテンツの場合、そもそも著作物性(人間の思想または感情を創作的に表現したものであること)が認められるか、という根本的な問題も生じえます。著作物性が認められない場合は、著作権は発生せず、職務著作の議論も成り立ちません。著作物性が認められる場合であっても、その「著作者」が人間ではなくAIであると評価される可能性も指摘されており、この場合の権利帰属については、現行法の職務著作の枠組みでは解釈が困難な場合があり得ます。

「職務上作成」と人間の創作的寄与

職務著作が成立するためには、著作物が従業員の職務の範囲内で作成される必要があります。AIツールを利用したコンテンツ制作が従業員の担当業務として明確に位置づけられていることが重要です。

また、「職務上作成」された著作物であるためには、最終的なコンテンツに対して人間の側で何らかの創作的な寄与があることが前提となります。単にAIが生成したものをそのまま利用するだけでなく、プロンプトを工夫して生成内容をコントロールしたり、複数の生成結果から適切なものを選定・編集したりするなど、人間の創作的な判断や修正が加わることで、職務著作の要件を満たす可能性が高まります。現時点では、AIの関与があっても、最終的な表現に人間の創作性が認められる範囲で著作物性が生じ、職務著作の適用が検討される、というのが一般的な考え方と言えます。

「契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと」

この要件は、職務著作の適用を左右する非常に重要なポイントです。会社の就業規則や個別の雇用契約、あるいは委託契約において、AI生成コンテンツを含む著作物の権利帰属について職務著作の原則とは異なる定めがある場合、そちらの定めが優先されます。例えば、「AIによって生成されたコンテンツの著作権は、利用した個人の人格に強く依拠するため、会社に帰属しない」といった特約があれば、職務著作は成立しません。逆に、「AIツールを用いて業務上作成された著作物についても、職務著作として会社に権利が帰属する」旨を明確に定めておくことは、権利帰属の安定性を高める上で有効な対策となり得ます。

AI生成コンテンツにおける職務著作成立のための実務上の注意点

AI生成コンテンツについて職務著作による会社の権利帰属を確実にするためには、法的な要件を踏まえた上で、以下の実務的な対策を講じることが推奨されます。

  1. 就業規則・社内規程の整備:
    • 就業規則や知的財産に関する社内規程において、AIツールの業務利用に関するルールと、それによって生成されたコンテンツの著作権が職務著作として会社に帰属する旨を明確に定めておくことが重要です。これにより、「別段の定めがない」状況を作り出し、かつ従業員等に方針を周知できます。
  2. AI利用に関する業務指示の明確化:
    • 単にAIツールの利用を許容するだけでなく、どのような目的で、どのような業務プロセスの中でAIを利用してコンテンツを制作するのかを具体的に指示することが、「法人等の発意」や「職務上作成」の要件を満たす上で有効です。プロジェクト単位での指示や、担当業務としてAIツールの利用を位置づけるなどの対応が考えられます。
  3. 人間の創作的寄与の記録:
    • 将来的に著作権の帰属や著作物性が問題となった場合に備え、AI生成プロセスにおける人間の寄与(プロンプトの作成・調整、生成結果の選定理由、加筆・修正内容、複数の生成結果を組み合わせた編集方針など)を記録しておくことが有効です。これにより、最終的なコンテンツに人間の創作性が反映されていることを説明しやすくなります。
  4. 外部委託契約における権利帰属の確認:
    • 外部のフリーランスや制作会社にAIツールを用いたコンテンツ制作を委託する場合、その契約書において、生成されるコンテンツの著作権(AI利用の有無にかかわらず)が委託者(自社)に帰属することを明確に定める必要があります。職務著作は雇用関係を前提とするため、委託契約には直接適用されません。
  5. 利用するAIツールの利用規約の確認:
    • 多くのAIツールには利用規約があり、生成されたコンテンツの権利帰属について独自の定めを設けている場合があります。例えば、生成物の著作権はユーザーに帰属すると明記されているもの、利用規約に同意することで開発元に特定の利用権が付与されるものなど様々です。自社の意図する権利帰属(職務著作による会社への帰属)と利用規約の内容に矛盾がないか、事前に確認することが不可欠です。利用規約が職務著作による会社への権利帰属を妨げる内容である場合は、そのツールの利用を再検討するか、開発元との個別の契約交渉を検討する必要があるかもしれません。

まとめ

AI生成コンテンツの著作権が職務著作として会社に帰属するかどうかは、著作権法第15条の要件を満たすか否か、特に「業務に従事する者が作成」し「職務上作成」されたものと言えるか、という点が鍵となります。AIの関与がある場合でも、人間の側で適切な指示、創作的な判断や編集プロセスを経ているかどうかが、著作物性や著作者の判断、ひいては職務著作の適用可能性に影響を与えると考えられます。

企業としては、単にAIツールを導入するだけでなく、就業規則や社内規程の整備、AI利用に関する明確な業務指示、人間の寄与を示す記録の管理、外部委託契約での権利帰属の明確化、そして何よりも利用するAIツールの利用規約の事前確認といった対策を講じることで、AI生成コンテンツに関する著作権の帰属を安定させ、法的なリスクを回避し、自社の知的財産を適切に保護することが求められます。AI活用の推進と並行して、これらの法務・知財関連の対応を進めることが、ビジネスを円滑に進める上で不可欠となります。