AI生成コンテンツの共同制作契約、著作権に関する必須条項と注意点
AI活用時代の共同制作と著作権契約の重要性
近年、様々なAIツールを活用してコンテンツを制作する機会が増加しています。特に複数のクリエイターや企業が共同で一つのコンテンツを作り上げる「共同制作」においてAIを用いるケースが増えており、その際に発生する著作権上の課題への適切な対応が不可欠となっています。共同制作においては、参加者それぞれの貢献と権利が複雑に絡み合うため、事前に権利関係を明確にしておくことがプロジェクトの成功と将来のトラブル回避に繋がります。
AIがコンテンツ生成に関与することで、従来の共同制作における著作権の考え方に新たな考慮事項が加わります。AIが生成した部分の著作物性や権利帰属、人間の貢献との境界線など、明確な線引きが難しい論点が存在するため、共同制作を行う際には、これらの点を踏まえた契約の締結が極めて重要になります。本稿では、AI生成コンテンツの共同制作契約において特に注意すべき著作権関連の必須条項と、実務上のポイントについて解説します。
共同制作における著作権の基本的な考え方とAIの介在
著作権法では、複数の者が共同して創作した著作物で、各人の寄与を分離して利用できないものを「共同著作物」と定めています(著作権法第2条第1項第11号)。共同著作物の著作権は、原則として共同著作者全員の共有となります。
AIがコンテンツ生成に関与する場合、その成果物が共同著作物と認められるか、あるいは単に複数の人間がそれぞれ独立して創作した部分の集合体と見なされるかは、AIの関与度合いや人間の創作的寄与の度合いによって判断が分かれる可能性があります。現行の日本の著作権法では、著作物として保護されるためには「思想又は感情を創作的に表現したもの」である必要があり、「創作」は人間の精神活動によって行われると考えられています。したがって、AI単独で生成したコンテンツに直ちに著作物性が認められるか、またAIを「著作者」と見なせるかについては否定的な見解が一般的です。
共同制作においてAIが活用される場合、著作権が問題となるのは、AIへの指示(プロンプト)の工夫や、AIが生成した素材の選定、加工、修正、組み合わせといった、人間の側で行われた創作的な行為によって生成された部分です。共同制作でAIが使用されたコンテンツの著作権は、原則としてその創作に貢献した人間の共同著作者たちに帰属すると考えられます。
AI生成コンテンツの共同制作で考慮すべき著作権上の課題
AI生成コンテンツの共同制作では、従来の共同制作に加え、AIの特性に起因する以下のような課題が発生し得ます。
- 権利帰属の不明確さ: AI生成物のどの部分にどの共同制作者の創作的寄与があるのか、貢献度を客観的に判断しにくい場合があります。また、使用したAIツールの利用規約が生成物の権利帰属について独自の定めを設けている場合もあり、これも考慮に入れる必要があります。
- 貢献度に応じた権利配分: 人間の創作的寄与が著作権の根拠となる一方で、AIによる生成能力自体が成果物の質や量に大きく影響することもあります。人間の貢献度合いとAIの技術的な寄与をどのように評価し、権利(特に財産権)を配分するかは難しい問題です。
- 著作者人格権の扱い: 共同著作物の場合、著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権など)は共同著作者全員の合意がなければ行使できないとされています。AIには著作者人格権は認められませんが、人間の共同著作者間の著作者人格権の行使について、あらかじめ契約で取り決めをしておくことが円滑な運用に繋がります。
- 二次利用や改変の範囲: 共同制作したAI生成コンテンツを、各共同制作者が個別に二次利用したり、改変したりする場合に、どこまで許されるかを明確にしておく必要があります。
- 責任の所在: 万が一、完成した共同制作物が第三者の著作権その他の権利を侵害していた場合に、誰がどの範囲で責任を負うのかを定めておくことが重要です。
これらの課題に対処するため、共同制作契約において著作権に関する条項を具体的に定めることが不可欠です。
共同制作契約書に盛り込むべき著作権関連の必須条項
AI生成コンテンツの共同制作契約を締結する際には、以下の著作権関連条項を明確に定めることを推奨します。
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著作権の帰属に関する条項:
- 共同制作によって完成したコンテンツ(成果物)の著作権(著作財産権)が誰に帰属するのかを具体的に定めます。
- 例:
- 共同制作者全員の共有とする場合、その持分をどのように定めるか(均等、貢献度に応じた割合など)。
- 特定の共同制作者(例: 主催者や委託者)に一括して譲渡する場合、その旨を明確に記載します。
- 共同制作者それぞれが自己の貢献部分の著作権を保持しつつ、共有部分の利用について定める場合など。
- AIが生成した「素材」や「中間生成物」の著作権(もし著作物性が認められる場合)や利用権についても、どのように扱うかを定めておくとより丁寧です。
- 使用するAIツールの利用規約における権利帰属に関する定めを確認し、契約内容との整合性を図る必要があります。
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著作者人格権に関する条項:
- 共同著作物の著作者人格権は共同制作者全員の合意が必要となるため、契約でその行使方法について定めておくとスムーズです。
- 例:
- 氏名表示権について、全員の氏名を表示するか、一部の者のみ表示するか、表示しないかなどを定める。
- 同一性保持権について、共同制作者が成果物を改変する場合に、他の共同制作者の許諾が必要か否か、許諾が不要な改変の範囲などを定める。
- 特に、第三者へのライセンスや著作権譲渡を想定している場合は、「著作者人格権を行使しない」旨の特約(不行使特約)を設けることが一般的です。ただし、著作者人格権は一身専属的な権利であるため、その性質を十分に理解した上で条項を検討する必要があります。AIには著作者人格権は発生しない点を明記することも検討できます。
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成果物の利用許諾・範囲に関する条項:
- 完成した成果物を、各共同制作者や第三者がどのような目的で、どの範囲で利用できるかを具体的に定めます。
- 例:
- 商用利用、非商用利用の可否。
- 展示、複製、頒布、公衆送信(インターネット配信など)の可否とその方法。
- 二次的著作物の作成(改変して別の作品を作るなど)の可否と、作成された二次的著作物の権利帰属。
- 利用期間や地域の限定。
- 各共同制作者が、共同制作物の一部ではない自己の元のアイデアや素材を別途利用することの可否についても定めておくと良いでしょう。
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収益の分配に関する条項:
- 成果物を商業利用して収益が発生した場合の、各共同制作者への分配方法や計算方法を定めます。
- 例:
- 売上または利益に応じた分配率。
- 経費の取り扱い。
- 分配時期や報告義務。
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表明保証および権利侵害時の責任に関する条項:
- 共同制作に提供される素材やアイデアが、第三者の著作権、商標権、肖像権などの権利を侵害していないことを、提供者が表明保証する条項を設けます。
- 万が一、成果物が第三者の権利を侵害し、損害賠償請求等を受けた場合の責任分担、対応方法(訴訟対応、和解交渉など)、費用の負担について定めます。AI生成部分に起因する侵害リスクについても、可能な範囲で責任の所在を明確にしておくとリスク管理に役立ちます。
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秘密保持に関する条項:
- 共同制作の過程で知り得た情報(アイデア、プロンプト、制作ノウハウ、未公表の成果物内容など)の秘密保持義務について定めます。特にAIへの指示内容(プロンプト)は競争力の源泉となるため、その秘密性を守るための条項は重要です。
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契約期間と終了後の取り扱いに関する条項:
- 契約の有効期間を定めます。
- 契約が終了した場合(期間満了、解除など)に、成果物の著作権や利用許諾がどうなるかを定めます。
共同制作契約締結前の確認事項(チェックリスト)
契約書作成・締結に進む前に、共同制作者間で以下の点について十分に話し合い、合意しておくことが円滑なプロジェクト遂行と契約締結に繋がります。
- プロジェクトの最終的な目標と成果物のイメージを具体的に共有できていますか。
- 共同制作において使用するAIツールとその利用規約(特に生成物の権利帰属に関する条項)を確認し、参加者全員が理解していますか。
- 各共同制作者の役割分担と、成果物への具体的な貢献内容について認識を合わせていますか。
- AIへの指示方法(プロンプト)や、AIが生成した素材の選定・加工プロセスにおける各参加者の関与度合いについて共通認識がありますか。
- 成果物の利用目的(商用利用か、プロモーション利用かなど)や、想定される利用範囲(Webサイト、印刷物、イベントなど)について合意していますか。
- 成果物を公開する場合の表示方法(共同制作者名の表示方法、AI利用の表示要否など)について取り決めていますか。
- 成果物に含まれる第三者のコンテンツ(音楽、画像、動画など)や、関係者の肖像、商標などについて、必要な権利処理(許諾取得など)の見込みや責任分担を確認していますか。
- 収益が発生した場合の分配方法について話し合っていますか。
- 万が一、著作権侵害等の問題が発生した場合の連絡・対応体制について想定していますか。
これらの事項を事前にクリアにしておくことで、契約書作成時の内容の漏れや、後からの認識のずれを防ぐことができます。
実務上の注意点
共同制作契約は、その後のトラブルを未然に防ぐための重要なステップです。以下の点に注意して実務を進めてください。
- 書面での契約締結: 口頭での合意だけでなく、必ず契約書を作成し、全当事者が内容を確認した上で署名または記名押印を行ってください。電子契約サービスを利用することも有効です。
- 専門家への相談: AI関連の著作権問題はまだ新しい分野であり、解釈が定まっていない部分もあります。複雑な案件や高リスクが想定される場合は、AI関連の著作権に詳しい弁護士や弁理士などの専門家に契約書作成の相談をすることを強く推奨します。
- 契約内容の定期的な見直し: AI技術や法制度、あるいはプロジェクトの進行状況に応じて、当初の契約内容が実態に合わなくなる可能性もゼロではありません。必要に応じて契約内容を見直す機会を設けることも検討してください。
- 関係者間のコミュニケーション: 共同制作においては、日頃からの密なコミュニケーションが重要です。著作権に関する懸念や疑問が生じた際には、早めに共同制作者間で話し合い、必要に応じて専門家の意見を求めるように努めてください。
まとめ
AIを活用したコンテンツの共同制作は、効率的な制作や新たな表現の可能性を広げる一方で、著作権に関する新たな課題も生じさせます。これらの課題に適切に対処し、プロジェクトを円滑に進め、将来的なトラブルを回避するためには、共同制作契約書において著作権の帰属、利用範囲、著作者人格権の扱い、責任分担といった項目を明確に定めることが不可欠です。
共同制作者間で十分に話し合い、事前に確認すべき事項をクリアにした上で、書面による契約を締結し、必要に応じて専門家の助言を得るようにしてください。適切な契約管理を行うことで、AI技術のメリットを最大限に活かしつつ、法的なリスクを管理することが可能になります。