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AI生成コンテンツの著作者人格権:実務での考え方と注意点

Tags: 著作者人格権, AI著作権, 著作権法, 実務, 契約, コンテンツ制作

AI生成コンテンツにおける著作者人格権の重要性

AI技術の進化により、画像、文章、音楽、動画といった多様なコンテンツがAIによって生成されるようになりました。これらのAI生成コンテンツをビジネスで活用する際、著作権(財産権)に関する議論は広く行われていますが、「著作者人格権」についても理解し、適切に対応することが重要です。

日本の著作権法において、著作者人格権は著作者に一身専属的に帰属する権利であり、著作物に対する著作者の精神的な利益を保護することを目的としています。これは著作権(財産権)とは異なり、他人に譲渡したり相続させたりすることはできません。

AI生成コンテンツが「著作物」と認められるか、そして認められた場合に著作者人格権がどのように扱われるのかは、現時点では法的な議論や実務上の課題が多く存在します。しかし、ビジネスでAI生成コンテンツを利用、あるいは制作・提供する立場としては、予期せぬトラブルを避けるためにも、著作者人格権に関する考え方と実務上の注意点を把握しておく必要があります。

著作者人格権とは?日本の著作権法における基本

日本の著作権法で定められている著作者人格権は、主に以下の3つです。

  1. 公表権(第18条)

    • まだ公表されていない著作物を公表するかどうか、公表するとすればいつ、どのような方法で公表するかを決定できる権利です。
    • AI生成コンテンツを制作した場合、これを公表するタイミングや手段を誰が決定するのかが問題となり得ます。
  2. 氏名表示権(第19条)

    • 著作物の原作品や公衆に提供・提示する際に、著作者名(実名または変名)を表示するかしないか、表示するとすればどのような氏名を用いるかを決定できる権利です。
    • AI生成コンテンツの場合、「著作者」と表示されるべきは誰なのか(AI、AI開発者、プロンプト入力者など)が論点となります。実務上、どのように表示を行うか(あるいは行わないか)が重要になります。
  3. 同一性保持権(第20条)

    • 著作物やその題号を、自分の意に反して改変されない権利です。著作物の内容や形式を勝手に変えられないように保護します。
    • AI生成コンテンツを修正・加筆したり、別の用途に転用したりする際に、この権利が問題となる可能性があります。特に、生成されたコンテンツの雰囲気を大きく変えるような改変は注意が必要です。

これらの権利は、著作権(財産権)のように複製権や公衆送信権など著作物の利用をコントロールする権利とは性質が異なります。財産権は他人に譲渡したり許諾したりできますが、人格権は著作者固有の権利として扱われます。

AI生成コンテンツに著作者人格権は発生するのか?

AI生成コンテンツに著作者人格権が発生するかどうかの前提として、そのコンテンツがそもそも著作権法上の「著作物」に該当するかという問題があります。日本の著作権法において著作物と認められるためには、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であり、「人間の創作的寄与」が必要であるという考え方が一般的です。

現時点では、どのような場合に「人間の創作的寄与」が認められるかに関する明確な法的基準や判例は確立されていません。個別の事案ごとに判断されることになります。この不確実性が、AI生成コンテンツの著作者人格権を考える上での大きな課題となっています。

AI生成コンテンツの著作者人格権に関する実務上の注意点

AI生成コンテンツが「著作物」と認められ、「人間の著作者」に著作者人格権が帰属する場合、実務上は以下の点に注意が必要です。

  1. 氏名表示について

    • 著作者人格権は人間の著作者に帰属するため、氏名表示権もその人間にあります。コンテンツを公開する際、その人間の著作者名をどのように表示するか、あるいは表示しないかを決定する必要があります。
    • 「AI生成」である旨を明記するかどうかは、法的な義務ではありませんが、透明性の観点から表示を検討するケースも増えています。この場合、「〇〇(人間名)作(AI使用)」「AIと〇〇(人間名)による共作」といった形式が考えられます。どのような表示を行うかは、氏名表示権を持つ人間の著作者が決定権を持ちます。
    • AIツールによっては、生成物に自動的に透かし(ウォーターマーク)やAI生成を示すメタデータが付与される場合があります。これらの仕様を確認し、必要に応じて表示方針を検討してください。
  2. 改変について(同一性保持権)

    • 著作物と認められたAI生成コンテンツに対し、人間の著作者の意に反する改変は、同一性保持権の侵害となる可能性があります。
    • 実務上は、コンテンツを利用する者(クライアント、共同制作者など)との間で、どの程度の改変を許諾するかを事前に明確に合意しておくことが重要です。契約や仕様書に、改変の範囲や条件を具体的に記載することを検討してください。
    • 「軽微な改変」や「やむを得ない改変」は同一性保持権の侵害とはならない場合がありますが、その範囲は曖昧です。特に、コンテンツのメッセージ性や意図に関わるような重要な部分の変更は慎重に行う必要があります。
  3. 契約関係における人格権の扱い

    • クライアントからAI生成コンテンツの制作を請け負う場合、または外部のクリエイターにAI生成コンテンツの制作を委託する場合、契約の中で著作者人格権についてどのように扱うかを定めることが推奨されます。
    • ただし、著作者人格権は譲渡できない権利です。契約で定めるのは、これらの権利を行使するかどうか、または権利行使の内容(例:氏名表示の方法、改変の許諾範囲)に関する合意事項となります。
    • 例えば、「氏名表示権を行使しない」「特定の範囲の改変については異議を述べない」といった取り決めを行うことが実務上よく見られます。ただし、著作者の精神的な利益を不当に害するような契約内容は無効となる可能性もあるため、注意が必要です。
  4. AIツール利用規約の確認

    • 利用するAIツールの利用規約に、生成されたコンテンツの著作権や著作者人格権に関する規定がないかを確認してください。ツールによっては、生成物の利用に関する特殊な規定が設けられている場合があります。
  5. 人格権侵害への対応

    • もし、制作したAI生成コンテンツが「著作物」と認められ、その著作者人格権が侵害されたと考えられる場合(例:意に反する改変、無断での氏名削除や不適切な氏名表示など)、まずは相手方に対して侵害行為の停止や是正を求める通知を行います。状況に応じて、弁護士などの専門家への相談を検討してください。

まとめ:不確実性の中での実務対応

AI生成コンテンツの著作者人格権に関する法的な解釈は発展途上にあり、現時点では多くの不確実性が伴います。特に「人間の創作的寄与」の判断基準や、人格権が誰に帰属するのかといった点は、今後の議論や裁判例を注視していく必要があります。

このような状況下で、コンテンツ制作やビジネスにおいてAI生成コンテンツを取り扱う担当者が取るべき姿勢は、以下の点に集約されます。

AI生成コンテンツの活用は今後さらに拡大していくと考えられます。著作者人格権を含む著作権に関する正しい理解と、実務に即した適切な対応は、法的なリスクを管理し、クリエイターや企業の権利と利益を守る上で不可欠です。