AI生成コンテンツの二次加工における著作権:実務で抑えるべきポイント
AI技術の進化により、画像や文章、音楽、動画など、様々なコンテンツが容易に生成できるようになりました。しかし、生成されたコンテンツをそのまま利用するだけでなく、自社の意図やクリエイティブな要求に応じて、さらに編集や加工を加えるケースも少なくありません。このような「二次加工」はコンテンツ制作の実務で頻繁に行われますが、著作権の観点からいくつかの注意点があります。
AI生成コンテンツの「二次加工」とは
本記事で言う「二次加工」とは、AIによって生成されたオリジナルのコンテンツに対し、人間の手によって何らかの編集や修正、追加、削除、組み合わせなどを行い、元のコンテンツとは異なる、あるいは元のコンテンツを基にした新たなコンテンツを生み出す行為全般を指します。
具体的には、以下のような行為が含まれます。
- AIが生成した画像の一部を切り取る、色調を調整する、テキストを加える、別の画像と合成する。
- AIが生成した文章を加筆修正する、構成を変更する、他の文章と組み合わせる。
- AIが生成した音楽に別の音源を重ねる、リズムやメロディーを編集する。
- AIが生成した動画にテロップを入れる、シーンの順番を入れ替える、エフェクトを加える。
コンテンツ制作の現場では、AI生成物を単なる素材として捉え、様々な二次加工を施して最終的な成果物とするのが一般的になりつつあります。
二次加工と著作権の基本的な考え方
AI生成コンテンツの二次加工における著作権上の考え方は、元のAI生成物が著作物性を持っているかどうか、そして加工の度合いによって異なってきます。
1. 元のAI生成物に著作物性がある場合
日本の著作権法において、著作物として認められるためには「思想又は感情を創作的に表現したもの」であり、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」である必要があります。AI生成物がこの著作物性の要件を満たすかどうかは、生成プロセスにおける人間の創作的寄与の度合いなどが考慮され、個別のケースごとに判断されると考えられています。
もし、元のAI生成物が著作物として保護される場合、その著作権は原則として、生成に関与した人間(例えば、生成AIを操作し、創作意図をもって特定の表現結果を意図・指示した者など)に帰属すると解釈されることが多いです。
このような著作物性のあるAI生成物を二次加工する行為は、元の著作物を「翻訳、編曲、変形、脚色、映画化その他翻案」する行為、すなわち「翻案権」に関わる可能性があります。著作権法上、原著作物の翻案権は著作権者に専属します。したがって、著作物性のあるAI生成物を二次加工する場合、原則として原著作権者(AI生成物の著作権者)の許諾が必要となります。
ただし、元の著作物の表現形式を維持しつつ、新たな創作性を加えてこれとは別の著作物を創作した場合、その新たな著作物は「二次的著作物」として保護されます。この二次的著作物の著作権は、二次加工を行った者に帰属しますが、原著作権者の権利(翻案権など)に影響を及ぼすものではありません。つまり、二次的著作物を利用する際にも、原著作物の著作権者の許諾が必要となる場合があります。
2. 元のAI生成物に著作物性がない場合
AI生成コンテンツの中には、著作物性を満たさないとされるものもあります。例えば、統計データや単なる事実の羅列、誰が作成しても同じになるようなありふれた表現など、創作性が認められないケースです。
このような著作物性のないAI生成物を二次加工する場合、元の生成物自体に著作権がないため、その利用や加工について著作権法上の許諾は原則として不要です。
しかし、著作物性のないAI生成物に人間の創作的な加工を加えることで、新たに著作物性が認められるコンテンツが生まれる可能性があります。この場合、その新たに生まれたコンテンツは、加工を行った者(人間)の著作物として保護されることになります。
実務で考慮すべき具体的な注意点
コンテンツ制作会社としてAI生成コンテンツの二次加工を行う際には、以下の点を実務的に確認し、リスクを管理することが重要です。
1. AIツールの利用規約の確認
最も重要な点の一つは、利用しているAIツールの利用規約です。多くのAIサービスでは、生成されたコンテンツの権利帰属や利用範囲、加工・編集に関する規定を定めています。
- 権利帰属: 生成されたコンテンツの著作権がユーザーに帰属するのか、サービス提供者に帰属するのか、あるいは共有されるのかなどを確認します。
- 利用範囲: 生成コンテンツの商用利用、改変、再配布などが許容されているかを確認します。二次加工が許容されていない場合や、特定の条件(例:クレジット表示)が付されている場合があります。
- 学習データ: AIの学習データに関するポリシーも確認しておくと良いでしょう。意図せず既存著作物と類似したコンテンツが生成されるリスクに関連します。
利用規約はサービスによって大きく異なり、また頻繁に変更される可能性があるため、常に最新の情報を確認する体制を整える必要があります。
2. 元の素材に関する権利関係の確認
二次加工に際して、元のAI生成コンテンツだけでなく、他の既存の画像、音楽、映像素材などを組み合わせる場合、それらの素材の著作権やその他の権利(肖像権、商標権など)も考慮する必要があります。これらの素材に著作権がある場合は、別途その権利者からの利用許諾が必要となります。AI生成コンテンツだからといって、他の権利が免除されるわけではありません。
3. 加工の度合いと新たな著作物性の判断
元のAI生成物が著作物性を持たない場合でも、加工の度合いによっては新たに著作物性が生まれる可能性があります。どの程度の加工で著作物性が認められるかは、個別の創作行為によって判断されるため、一概に線引きを示すことは困難ですが、単なるトリミングや色調補正といった機械的な作業にとどまらず、人間の思想や感情が反映された創作的な表現が加えられているかがポイントとなります。
4. クライアントとの契約における取り決め
クライアントから依頼を受けてAI生成コンテンツを二次加工して納品する場合、加工後の成果物の著作権の帰属や利用範囲について、事前にクライアントとの間で明確な契約を取り交わしておくことが不可欠です。
- 加工後の成果物の著作権は、制作会社(二次加工を行った者)に帰属するのか、クライアントに譲渡するのか。
- クライアントは納品された成果物をどのような範囲で利用できるのか(特定の用途、期間、地域など)。
- 二次加工の過程で発生しうる著作権上のリスク(例:元のAI生成物の著作権侵害、第三者の権利侵害)について、どちらが責任を負うのか。
これらの点を契約書に明記することで、将来的なトラブルを防ぐことができます。
実務で取るべき対策
AI生成コンテンツの二次加工に伴う著作権リスクを管理するために、制作会社が実務で取るべき対策を以下に示します。
- AIツールの利用規約チェックリストの作成: 利用している主要なAIツールの利用規約における「生成コンテンツの権利帰属」「商用利用の可否」「加工・改変の可否」「クレジット表示義務」といった項目をリスト化し、プロジェクトごとに確認するフローを設ける。
- 加工履歴の記録: 元のAI生成コンテンツと、それにどのような加工(加筆、修正、組み合わせた他の素材など)を施したかを具体的に記録する体制を構築する。これにより、成果物のどの部分が人間の創作によるものか、あるいはどの素材を使用したかなどを後から検証できるようになります。これは、万が一著作権侵害を指摘された場合や、自社の権利を主張する場合の重要な証拠となりえます。
- 使用素材の権利確認フロー: 二次加工において外部素材(既存画像、BGMなど)を利用する場合、その素材がAI生成物か否かにかかわらず、利用許諾の範囲やクレジット表示義務などを確認し、適切な方法で利用するフローを徹底する。
- 専門家への相談: AI著作権に関する法的な解釈はまだ確立されていない部分も多く、個別のケースで判断が難しい場合があります。懸念が生じた場合は、著作権法に詳しい弁護士や弁理士などの専門家に相談することを検討してください。
まとめ
AI生成コンテンツの二次加工は、コンテンツ制作において非常に有用な手法ですが、著作権の観点から適切な対応が必要です。元のAI生成物の著作物性の有無、加工の度合い、利用するAIツールの規約、そして他の素材の権利関係など、様々な要素を総合的に考慮する必要があります。
実務においては、利用規約を丁寧に確認し、加工の履歴を記録すること、そしてクライアントとの間で権利関係を明確に契約することが、リスクを回避し、スムーズなプロジェクト遂行のために不可欠です。AI技術を効果的に活用しつつ、著作権を適切に尊重し、自社やクライアントの権利を守るための体制構築を進めることが求められています。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の法的事案に対するアドバイスではありません。個別のケースについては、専門家にご相談ください。