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AI生成コンテンツの二次利用:著作権上の注意点とリスク

Tags: 著作権, AI, 二次利用, 翻案権, コンテンツ制作, リスク管理

はじめに:AI生成コンテンツの二次利用と著作権上の課題

近年、AIツールを用いて生成された画像、文章、音楽などのコンテンツが広く活用されています。これらのAI生成コンテンツは、そのまま利用されるだけでなく、加工、編集、他のコンテンツとの組み合わせといった「二次利用」されるケースも増えています。しかし、このような二次利用を行う際には、著作権法上の様々な論点やリスクが伴います。

特に、コンテンツ制作に携わる方々にとって、AI生成コンテンツの二次利用における著作権の取り扱いは、法的なトラブルを避け、自社やクライアントの権利を守る上で極めて重要です。この記事では、AI生成コンテンツの二次利用に焦点を当て、著作権法上の考え方、関連するリスク、そして実務上注意すべき点について解説します。

著作権法の基本原則:二次利用と翻案権

AI生成コンテンツの二次利用における著作権問題を理解するためには、まず著作権法における「二次的著作物」と「翻案権」の概念を把握する必要があります。

「二次的著作物」とは何か

著作権法第2条第1項第11号において、「二次的著作物」とは、「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物」と定義されています。これは、既存の著作物(「原著作物」といいます)に依拠しつつも、新たな創作性が付加されて生まれた著作物を指します。二次的著作物も、独立した著作物として保護されます。

「翻案権」とは何か

著作権法第27条では、著作者は「その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利」(翻案権および二次的著作物の創作権)を専有すると定めています。つまり、著作物を基にして二次的著作物を創作するには、原則として原著作物の著作者の許諾が必要となります。無断で翻案行為を行うことは、翻案権の侵害にあたります。

AI生成コンテンツにおけるこれらの概念の適用

AI生成コンテンツを改変したり、他のコンテンツと組み合わせたりする行為は、多くの場合、上記の「翻案」に該当する可能性があります。これにより生まれた新たなコンテンツは、元のAI生成コンテンツを原著作物とする二次的著作物となり得ます。

しかし、AI生成コンテンツを原著作物とする二次的著作物に関する著作権上の論点は、通常の人間が創作した著作物とは異なる複雑さを持ちます。主な論点は、以下の通りです。

AI生成コンテンツの二次利用に関する著作権上の論点

元のAI生成コンテンツに著作物性が認められるか否か

日本の著作権法では、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています(著作権法第2条第1項第1号)。この「創作性」は、作成者の個性が現れているかどうかが判断基準となります。

AIが「自律的」に生成したコンテンツについては、現時点の日本の法解釈では、原則として思想または感情が認められにくく、著作物性が否定される傾向にあります。一方、人間がAIを「道具として」利用し、作成者の思想または感情が反映されるようにAIを制御・指示(プロンプト等)した場合に生成されたコンテンツは、著作物性が認められる可能性があります。

もし元のAI生成コンテンツ自体に著作物性が認められない場合、それを改変したり組み合わせたりして生まれたコンテンツも、厳密には「二次的著作物」とはなり得ません。ただし、その改変や組み合わせの過程で、新たな創作性が付加された場合は、その付加された部分や結果として生まれた新たなコンテンツ全体が独立した著作物として認められる可能性はあります。

誰が翻案権者となるのか

元のAI生成コンテンツに著作物性が認められる場合、その著作権(翻案権を含む)は原則として、創作性の発揮に寄与した「著作者」に帰属します。AI生成コンテンツの場合、プロンプトの入力や指示など、生成プロセスにおいて創作的に寄与した人間(AIユーザー)が著作者と判断される可能性が高いと考えられます。AIプロバイダやAIそのものが著作者とされることは、現時点の法解釈では考えにくいでしょう。

したがって、AI生成コンテンツを二次利用する場合、その元のAI生成コンテンツの著作権者(多くの場合AIユーザー)の許諾が必要となる可能性があります。

AI生成コンテンツを利用規約に基づき二次利用する場合

多くのAIツールやプラットフォームは、生成されたコンテンツの利用に関する規約を定めています。この規約において、生成物の著作権の帰属先や、利用(二次利用を含む)の許諾範囲が定められていることが一般的です。

例えば、規約で「生成物の著作権はユーザーに帰属する」と明記されており、かつ二次利用が許容されている場合は、その規約の範囲内で自由に二次利用できると考えられます。しかし、「生成物の著作権はAIプロバイダに帰属するが、ユーザーは特定の範囲で利用できる」となっている場合や、二次利用に関する明確な定めがない場合、あるいは二次利用が制限されている場合は、規約に従う必要があります。規約の解釈に不明な点がある場合は、提供元に確認することが重要です。

他の既存著作物を学習したAIによる生成物の二次利用のリスク

AIが大量の既存著作物(テキスト、画像、音楽等)を学習してコンテンツを生成する過程で、学習データに含まれる特定の著作物と類似性の高いコンテンツを生成する可能性があります。このようなAI生成コンテンツを二次利用した場合、元の学習データに含まれていた著作物の著作権を侵害するリスクが生じます。

特に、改変や組み合わせによって元のAI生成コンテンツの特徴が薄れたとしても、侵害の根拠となった類似性のある部分が残っている場合や、二次利用によって元の著作物との類似性がより明確になるような方法で使用した場合などには注意が必要です。

具体的なケーススタディと注意点

いくつかの具体的なケースを想定し、AI生成コンテンツの二次利用における著作権上の注意点を確認します。

リスク回避と実務上の対応策

AI生成コンテンツの二次利用における著作権上のリスクを回避し、安全に活用するためには、以下の点を実務として行うことが推奨されます。

まとめ

AI生成コンテンツの二次利用は、新たな創作やビジネス展開の可能性を広げる一方で、著作権に関する潜在的なリスクを伴います。元のAI生成コンテンツの著作物性の有無、著作権の帰属、AIツールの利用規約、そして学習データに起因する既存著作物との類似性など、様々な要因が複雑に絡み合います。

これらのリスクを管理するためには、利用するAIツールの規約を十分に理解し、二次利用の許諾範囲を明確にすることが不可欠です。また、他の著作物との類似性には常に注意を払い、疑わしい場合は利用を控える判断も必要となります。最も安全なのは、専門家への相談を通じて、個別のケースにおける適切な対応を確認することです。

AI技術の進化とともに、AI生成コンテンツの著作権に関する法的な議論や解釈も今後変化していく可能性があります。最新の情報や一般的な考え方を常に把握し、慎重な姿勢でAI生成コンテンツの二次利用に取り組むことが、法的なトラブルを回避し、ビジネスを円滑に進める鍵となるでしょう。