AI生成コンテンツを安全に「利用」するための著作権上の注意点と実務対策
AI生成コンテンツの「利用」における著作権リスクとは
近年、画像、文章、音楽、動画など、様々なAI生成コンテンツがビジネスの現場で活用される機会が増えています。自社でAIツールを使ってコンテンツを制作するだけでなく、外部から提供されたAI生成コンテンツを組み合わせて利用したり、クライアントから納品されたAI生成コンテンツをプロジェクトに使用したりする場面も少なくないでしょう。
このような「利用」のフェーズにおいても、著作権に関する様々なリスクが存在します。制作段階のリスクとは異なる視点が必要となり、利用者はそのコンテンツがどのような権利関係にあるのか、著作権侵害の可能性はないのかなどを慎重に確認する必要があります。本記事では、AI生成コンテンツを安全に利用するために知っておくべき著作権上の注意点と、具体的な実務対策について解説します。
利用時に考慮すべき主な著作権リスク
AI生成コンテンツを利用する際に直面しうる著作権リスクは多岐にわたりますが、代表的なものとして以下が挙げられます。
1. 利用対象となるAI生成コンテンツ自体の著作権侵害リスク
AIは大量のデータを学習してコンテンツを生成します。この学習データに著作物が含まれており、生成されたコンテンツが特定の著作物と酷似している場合、著作権侵害となる可能性があります。利用者がこの侵害状態にあるAI生成コンテンツを二次利用するなどすると、結果として利用者が著作権侵害に加担したとみなされるリスクがあります。
- 実務での注意点:
- 特に既存の著名な著作物や特定のスタイルに酷似している可能性のあるコンテンツの利用には慎重になるべきです。
- 利用しようとしているコンテンツの生成元や、その生成プロセスに関する情報(可能な範囲で)を確認し、リスクが高いと判断される場合は利用を避ける、またはリスク低減のための措置(大幅な改変など)を検討します。
2. 利用規約やライセンス条件の不遵守リスク
AIツールの利用規約や、AI生成コンテンツの提供元(プラットフォーム、クリエイターなど)が定めるライセンス条件には、商用利用の可否、クレジット表示の義務、改変の可否、利用可能な範囲などが明記されている場合があります。これらの条件に違反してコンテンツを利用した場合、契約違反だけでなく、著作権侵害とみなされる可能性があります。
- 実務での注意点:
- 利用するAI生成コンテンツや、それを作成したAIツールの利用規約やライセンス条件を必ず事前に確認してください。
- 特に商用利用、二次加工・改変、再配布などに関する制限がないか注意深くチェックします。
- 不明な点があれば、提供元に問い合わせるなどして明確にしておくことが重要です。
3. 権利帰属に関する問題
外部から提供されたAI生成コンテンツの場合、その著作権が誰に帰属しているのか不明確な場合があります。特に、複数の主体が関わって生成されたコンテンツや、複雑なライセンス体系を持つコンテンツでは、利用者が意図しない権利制限に直面したり、後から権利者と称する第三者から利用差止や損害賠償を求められたりするリスクがあります。
- 実務での注意点:
- コンテンツを提供する側(クライアント、外部委託先など)との契約において、納品されるAI生成コンテンツに関する著作権等の権利が適切に処理されていること、または利用者が利用に必要なライセンスを確かに取得できることを明確に保証してもらう条項を盛り込むことを検討します。
- 権利関係が複雑なコンテンツについては、利用範囲を限定するなどのリスク回避策を講じます。
安全な利用のための実務対策
これらのリスクを踏まえ、AI生成コンテンツをビジネスで安全に利用するためには、以下のような実務対策を講じることが有効です。
1. 利用するコンテンツの権利関係・利用条件の徹底的な確認
AI生成コンテンツを利用する前に、以下の点を必ず確認しましょう。
- 利用規約・ライセンス: AIツール提供者やコンテンツ提供者が定める利用規約、ライセンス条件(Creative Commonsライセンスなど)を詳細に読み込み、利用目的(商用利用、改変の有無、公開範囲など)が許容されているかを確認します。特に、クレジット表示義務や派生作品の作成制限などが課されていないか注意します。
- 権利帰属: コンテンツが外部から提供される場合は、その著作権が誰に帰属しているのか、利用者がどのような権利(利用許諾、譲渡など)を取得できるのかを契約書や合意書で明確にします。納品物に含まれるAI生成コンテンツについて、提供者が著作権侵害がないことを保証する条項(権利侵害担保条項)を含めることも有効です。
2. 利用するAI生成コンテンツ自体のリスク評価
コンテンツの外観から、過去の著作物との類似性がないか、一般的な表現から大きく逸脱していないかなどを簡易的に評価することも重要です。
- 類似性チェック: 特に画像や文章の場合、既存の著名な作品や特定のスタイルに酷似していないか、目視やツールなどで確認します。完璧なチェックは難しいですが、明らかなリスクの兆候を見つける努力は有効です。
- 生成プロセスの確認: 可能であれば、どのようにそのAI生成コンテンツが生成されたのか(使用されたAIツール、プロンプトの内容、学習データに関する情報など)を確認することで、リスクの度合いを推測できる場合があります。
3. 社内ガイドラインの策定と周知
AI生成コンテンツの利用に関する社内ガイドラインを策定し、関係者に周知徹底することも重要です。
- 利用可能なAIツール・コンテンツの基準: 著作権リスクの低い、信頼できる提供元のAIツールやコンテンツに限定する基準を設ける。
- 利用時の確認プロセス: 利用規約の確認、権利帰属の確認、類似性チェックなど、利用を開始する前に踏むべきステップを定める。
- 禁止事項: 著作権侵害リスクの高い利用方法(例:特定のアーティストの作風を模倣する目的での利用、権利関係が不明確なコンテンツの無断利用)を明確に禁止する。
4. 契約によるリスクヘッジ
クライアントへの納品物や外部委託する制作物に含まれるAI生成コンテンツに関しては、契約書によるリスクヘッジが不可欠です。
- クライアントへの納品: 納品物にAI生成コンテンツが含まれる場合、その旨をクライアントに明示し、利用に関する注意点(利用規約への準拠、将来的な法改正リスクなど)を伝えることを検討します。また、納品物に関する権利侵害がないことの保証範囲や、万一侵害が発生した場合の責任範囲について契約で定めます。
- 外部委託: 外部の制作会社やフリーランサーにAI生成コンテンツの制作を委託する場合、著作権の帰属、第三者の権利侵害がないことの保証、利用可能な範囲などを明確に契約で定めます。
まとめ
AI生成コンテンツの利用は、クリエイティブな可能性を広げる一方で、著作権に関する新たな課題をもたらしています。特に、利用するコンテンツが内包する潜在的な侵害リスクや、複雑な利用条件への対応は、ビジネスを行う上で避けて通れない課題です。
安全にAI生成コンテンツを利用するためには、利用するコンテンツやツールの利用規約・ライセンス条件の徹底的な確認、権利帰属の明確化、そして利用対象自体のリスク評価が不可欠です。また、契約によるリスクヘッジや社内ガイドラインの整備も重要な実務対策となります。これらの対策を講じることで、AI生成コンテンツの利用に伴う著作権トラブルを未然に防ぎ、安心して創作活動やビジネスを進めることができるでしょう。
不確実性が伴う分野であるため、常に最新の情報収集に努め、判断に迷う場合は、著作権やAI法務に詳しい専門家(弁護士など)に相談することを強く推奨します。