私のAI作品、守るには?

AI活用プロジェクトにおける著作権リーガルチェックの実践:企画・制作・納品フェーズの重要ポイント

Tags: AI著作権, リーガルチェック, プロジェクト管理, 契約, リスク管理

はじめに:AI活用プロジェクトにおける著作権リスクの増大

近年、多様な生成AIツールがコンテンツ制作の現場に浸透し、プロジェクトの効率化や表現の可能性を広げています。しかしながら、AI生成コンテンツに関する著作権法の解釈は発展途上にあり、不明確な点も少なくありません。このような状況下でAIをビジネスに活用する際には、従来の著作権管理に加え、AI特有のリスクを考慮した慎重な対応が求められます。

特に、コンテンツ制作会社がAIツールを活用したプロジェクトを進める場合、自社の権利保護はもちろん、クライアントや第三者との関係性において、意図せぬ著作権侵害や権利帰属のトラブルに巻き込まれるリスクがあります。これらのリスクを最小限に抑え、プロジェクトを円滑に進めるためには、プロジェクトの各フェーズで適切な著作権に関するリーガルチェックを実施することが不可欠です。

本記事では、AI活用プロジェクトを「企画」「制作」「納品」の3つのフェーズに分け、それぞれの段階で特に注意すべき著作権上の重要ポイントと、実践的なリーガルチェックの方法について解説します。

企画フェーズのリーガルチェック:リスクの洗い出しと方針決定

プロジェクトの初期段階である企画フェーズは、将来的なトラブルを防ぐ上で最も重要なチェックポイントです。ここで著作権上のリスクを正確に評価し、対応方針を定めることが、その後の工程での手戻りや紛争を防ぐ鍵となります。

1. 利用するAIツール・サービスの利用規約確認

プロジェクトで使用するAIツールやサービスの利用規約は、必ず事前に詳細に確認する必要があります。特に以下の点に注目してください。

これらの規約はツールによって大きく異なるため、プロジェクトに適したツールを選定する上でも、著作権上のリスクを比較検討することが重要です。規約の解釈に不明な点があれば、ツール提供者に問い合わせるか、専門家に相談することを検討してください。

2. プロジェクト内容と著作物性の検討

制作しようとしているコンテンツが、著作権法上の「著作物」に該当するか、そしてその中でAIと人間の創作的寄与がどのように関わるかを検討します。

3. 既存著作物の学習利用リスク

プロジェクトで使用するAIモデルが、どのようなデータを学習しているかを確認することは困難な場合が多いですが、公開されている情報やツール提供者の姿勢からリスクを推測します。もし、モデルが権利者の許諾なく大量の著作物を学習データとして利用している可能性がある場合、そこから生成されるコンテンツが既存の著作物と類似し、著作権侵害のリスクを高める可能性があります。

リスクを低減するためには、学習データの透明性が高いツールを選択したり、後述する制作フェーズでの類似性チェックを徹底したりする方針を立てます。

4. クライアントへの説明責任

クライアントワークの場合、企画段階でAIツールの利用方針、それによって生じうる著作権上のリスク(権利帰属の不確実性、類似性リスク等)、および当社の対応方針について、クライアントと十分にコミュニケーションを取り、共通理解を得ておくことが極めて重要です。AI生成コンテンツ特有のリスクについて適切に説明し、同意を得ることで、納品後のトラブルを未然に防ぐことができます。

制作フェーズのリーガルチェック:リスクの管理と記録

企画フェーズで立てた方針に基づき、実際にコンテンツを制作する段階でのチェックポイントです。ここでは、制作過程におけるリスクを管理し、将来的な権利保護や侵害対応に備えるための記録を行います。

1. 入力データ(プロンプト等)の著作権管理

AIへの入力データ(プロンプト、参照画像、テキスト等)に第三者の著作物を含める場合は、著作権法上の「著作権を制限する規定」(例:引用、情報解析等)に該当するか、あるいは権利者の許諾を得ているかを確認します。無許諾で著作物性の高いコンテンツを入力データとして利用すると、生成物がその著作物に依拠したものと判断され、著作権侵害となるリスクがあります。

プロンプト自体が著作物性を持ちうるか、という議論もあります。独自性や創作性が認められるプロンプトであれば、著作物として保護される可能性もゼロではありません。重要なのは、入力するデータに他者の権利を侵害するものが含まれていないかを確認することです。

2. 生成物の「人間の創作的寄与」の確保と記録

生成されたコンテンツに対して、人間がどのような創作的な加筆・修正、あるいは選定や構成を行ったかを明確にし、それを記録に残すことが重要です。この「人間の創作的寄与」の度合いが、コンテンツ全体の著作物性、ひいては著作権保護の可否を判断する上で重要な証拠となり得ます。

これらの記録は、将来的に第三者からの権利侵害の指摘を受けた際や、自社の著作権を主張する際に、コンテンツに人間の創作性が含まれていることを証明する根拠となります。

3. 他社コンテンツとの類似性チェック

AIが学習データに基づき生成したコンテンツが、既存の著作物と意図せず類似してしまうリスクがあります。特に画像や音楽などの分野では、既存作品との高い類似性によって著作権侵害が成立する可能性があります。

制作過程で、生成されたコンテンツが既存の著名な作品や、市場に出回っているコンテンツと過度に類似していないかを確認する工程を設けることが推奨されます。目視や、可能であれば類似性チェックツール(現状、AI生成コンテンツに特化した万能なツールは限定的ですが)の活用を検討します。

納品フェーズのリーガルチェック:権利関係の最終確認と契約

プロジェクトの最終段階である納品フェーズでは、制作物の権利関係を最終的に確認し、クライアントとの契約内容に反映させることが中心となります。

1. 権利帰属の明確化

制作したコンテンツの著作権が誰に帰属するかを明確にします。 * 原則として、著作権は「著作者」(著作物を創作した者)に発生します。AI生成コンテンツの場合、人間の創作的寄与が認められる部分について、その寄与を行った者が著作者と解釈されることが多いです。 * 制作会社の従業員が職務として創作した場合、一定の要件(企画・制作が法人の発意に基づき、法人等の業務に従事する者が職務上作成し、かつ、法人等の名義で公表するもの)を満たせば、「職務著作」として法人に著作権が原始的に帰属します(著作権法15条)。AI生成コンテンツに人間の創作的寄与が認められる場合、その寄与が職務として行われたかどうかがポイントになります。 * フリーランスや外部パートナーに依頼して制作した場合、契約で権利帰属を定めていなければ、原則として創作した個人(委託された者)に著作権が発生します。委託元である制作会社やクライアントに著作権を譲渡してもらうためには、別途著作権譲渡契約を結ぶ必要があります。

AIツールの利用規約も考慮に入れ、これらの関係性を整理し、誰がどの権利(著作権、著作者人格権等)を持つのかを明確にします。

2. クライアントとの契約書への明記

クライアントとの契約書において、制作物の著作権に関する事項を詳細に記載します。

3. 成果物の表示に関する注意点

納品するコンテンツに、著作権表示(© [年] [著作権者名])を行うかどうかを検討します。著作権表示は著作権の発生要件ではありませんが、自身の権利を対外的に明確にする上で有効な場合があります。特に、人間の創作的寄与により著作物性が認められると考えられるAI生成コンテンツの場合、権利者を明記しておくことは意味があります。

また、AIツールによっては、生成物への特定の表示を規約で義務付けている場合があります。その場合は、クライアントと連携して適切に表示を行う必要があります。

まとめ:継続的なリーガルチェック体制の構築

AI活用プロジェクトにおける著作権リーガルチェックは、一度行えば終わりではありません。AI技術、関連法規の解釈、そして利用するAIツールの規約は常に変化しています。

制作会社として、継続的に最新の情報を収集し、社内のガイドラインやチェックリストを更新していくことが重要です。また、AI活用プロジェクトに関わる全ての担当者(ディレクター、クリエイター、エンジニア等)が著作権に関する基本的な知識を持ち、リスクを意識して業務にあたるような社内教育や啓発活動も有効です。

著作権に関する判断は専門性が高いため、疑義が生じた場合やリスク評価が困難な場合は、速やかに弁護士等の専門家に相談することを推奨します。適切なリーガルチェックを実践することで、AIの可能性を最大限に活かしつつ、法的なリスクを回避し、事業の安定的な発展に繋げることができるでしょう。